最近私の住む寮がよく襲撃される。つい先日も、ちょうど帰宅直後に覆面をした若者からエアガンでヒットアンドアウェイされた。しかもそれに出くわした後輩はマガジンの底で殴られ、鼻血を出して帰ってきた。ちょっとシャレにならないような状況になりつつある。思い出すと、何もしなかったことが少し悔やまれる。
2008年初夏、漫画家が出版社に対して原稿、作者への扱いをめぐって提訴する事件があった。この一連の問題から、松永豊和の発言も注目された。松永氏は、『バクネヤング』を1993年から1997年にかけて連載していた。以降『エンゼルマーク』『竜宮殿』を発表しているが、本作はまぎれもなく彼の代表作である。「僕の夢は、池球をせいふくすることです」と中学のときの言葉そのままに、ストレートで純粋な暴力をふりかざして凶行におよぶバクネ。またバクネの周りの人間の奇行もすばらしく、組長をバクネに拉致されたヤクザと機動隊が抗争を始め、しかもバクネが学生のころに犬扱いした体育教師が復讐の鬼となって外人ニンジャと舞い戻り、さらにはどさくさにまぎれて組長の娘が乗り込み、大阪城の周りはさながら阿鼻叫喚のるつぼと化す。
衝撃的なマンガだった。単行本オビには“世紀末バイオレンス”とあるものだから、てっきり『シグルイ』(南條範夫×山口貴由)ばりの肉体への執着や『北斗の拳』(武論尊×原哲夫)の世紀末叙事詩を想像していた。しかしさにあらんや、青木雄二に似た独特の絵柄で描かれる世紀末バイオレンスは、ギャグを基調にしたアホのドンパチだったのである。こういったマンガに今までお目にかかったことはなかった。いやお目にかかることなど二度とないだろう。だいいちバイオレンスとなると、一貫したニヒリズムや実存主義に作品全体が支えられているものが多く、それゆえにこそ読者を興奮させるのだが、なんというかこの作品の場合、主人公のバクネ自体があまりにもガキの思考パターンなうえ、周りの人々までこの台風の目に巻き込まれてアホの騒乱、一大事が勃発するという異常事態が起きる。ゆえにこのマンガの読み方は普段通りではまずダメだ。読者はこのマンガに行き渡る熱気を感じつつ読まなければならぬ。下手に小理屈付けて読もうとすると、「そんなんどうでもええやろ」とばかりにニヒリズムに陥って、白けた時間を過ごすハメになることだろう。
バクネの持つ異常な幼児性にならいたい。普段から危害を加えられることなどないような安穏とした生活にあると、今回のような突然のもめ事に腰骨からプルプル震えて手も足も出なくなる。バイオレンスの教科書とまでは言わないが、まずもってこれくらいの無邪気で解放された世界がある、ということを受け容れるだけでも大きな収穫となるように思う。
今回読んだのはヤングサンデーコミックス版だが、一旦打ち切りとなった本作に大幅に加筆を加え、完全版も発売されている。この途方もない世界にどうやって作者は幕を引くのか、興味のある方はこちらもぜひご一読いただきたい。
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