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知人が『毎日かあさん』の第5巻を買ってきた。本作が毎日新聞で日曜に連載されているのをご存じの方は多いだろう。ネットでも転載されているのを知り、ぼくも時折思い出したように読んでいた。母親である作者と2人の子どもたちとをめぐる日々が、その温かみを感じさせる筆致でつづられている。想像の一歩上をゆく子どもたちの言動には腹を抱えて笑わせられ、また時には、何気ない光景が泣きたいほどに切なく映る。本作はその表現を高く表現され、2005年に文化庁メディア芸術祭漫画部門優秀賞と手塚治虫文化賞短編賞を受賞している。
作者の西原理恵子氏の作風には“凄まじさ”がある。そういえば10年程前、氏の作品である『ぼくんち』を読んだことがあった。貧困に生きる人々の痛みや哀しみが、幼い主人公の視点で語られていた。暴力、差別、死、そういったものがもはや「当たり前」のような世界に生き、それでもなお生への希望を失わない純真な少年の姿が描かれていた。当時のぼくには、それがあまりにも赤裸々で救いのないものに映り、面白いとも思えず途中でやめてしまった。
それから西原氏が様々な著書を出していたのも知っていたが、氏の作品をあらためて意識したのは「毎日かあさん」が初めてだった。作者の周りに、やはり『ぼくんち』と同様に家族がいる。しかし今度は主人公が母で、周りにいるのは彼女の子どもたちだ。鋭敏な感性が向けられる先は、子ども時代の自分自身から我が子へと移る。そこには、『ぼくんち』で見た切実でひりつく感覚が薄れ、わが子を持った人の温かな視線が現れる。全編通して、“我が子が好き、この生活が大好き”という想いがにじみ出している。
育児ものとジャンルを設ければ、たくさんの作品がある。今連載中のものでも、「ママはテンパリスト」(東村アキコ)や「ぢごぷり」(木尾士目)、「うちの3姉妹」(松本ぷりっつ)など、読んでおきたい作品は数多い。しかしぼくは、この「毎日かあさん」が抜きんでて面白いと思う。力の限り遊びまわる男の子。ちょっとおしゃれなことが気になるけど、まだあどけない女の子。無邪気で元気な子どもたちに囲まれ、日々たくましくなるお母さん。そして家族のそばには、いつもどこかに鴨志田譲氏の思い出。切なくも楽しい毎日の出来事が、ここにえがかれている。
何でだろう。この人のマンガを読んでいると、ときどき胸の深いところが震えてしょうがない。
働いて
子供を育てて
夫を見送って
私のやってることは
世界中のぜんぶの女がやってることで
いやあ人生はたのしい
(p.44「鴨ちゃんのこと」)
これは本当に彼女の言葉だ、と思った。そう思うと、涙が出た。
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