古今漫画夢現-text/マツモト

柏木ハルコ『QUOJUZ』

この作品には前後の作品がかすんでしまう
ほどのパワーがあった。

柏木ハルコ、かわいい女の子を描くマンガ家さんの1人である。90年代中盤に『いぬ』でデビューして以来、いくつかの作品で注目されてきた。例えば、ノッてる演奏で興奮してしまうブラスバンド部の部長さんが主人公の『ブラブラバンバン』、村の習俗として受け継がれる夜這いがテーマの『花園メリーゴーランド』など独特の切り口の作品などがある。女性の「性」がしばしばテーマとなると言われる柏木氏の作品群は、それだけでも読んでいて楽しみ…もとい興味深い。もちろん、絵の雰囲気や女の子のセクシーさは今までに見ないような魅力があるのだが、その独特の視点と語り口がどのように展開されるのかは毎回興味を引かれる。

中でも、先に挙げた『いぬ』『ブラブラバンバン』『花園メリーゴーランド』はそれぞれ代表作と呼ばれ、映画化され、また学問的な関心を呼ぶ作品としてよく話題に上るのだけど、ここでぼくは敢えて『QUOJUZ』(コジューツ)を挙げたい。『鬼虫』の連載が終わった次の年、連載が始まった柏木ハルコ作品はどこか突き抜けていた。下ネタとナンセンスギャグ満載で疾走する作風。ストーリーラインをしっかりと組み立ててくるこれまでの作品とは違い、最大限に登場人物のキャラを使って暴走させているのに興味を引かれた。

高校を卒業して、父の家に居候しようと上京した村越幹生(むらこしみきお)。家に居たのは父ではなく、腹違いの美人姉3人だった。幹生は3姉妹に日々ちょっかいを出され、「高校時代一日3回だったオナニーが今、一日5回に増えている」始末。おかしくならない内に彼女を作ろうと決めて頑張るが、相変らず姉たちにはちょっかいを出されるわ、今度は腹違いの妹が登場するわで波乱の日々が続く。

今になって思えばこの『QUOJUZ』という作品、前後の作品がかすんでしまうほどのパワーがあった。3姉妹の暴走っぷりには、何も考えずに腹から笑うことができる。リアクションのタイミングや台詞まわしのセンスは、下ネタ目的でなくとも十分に楽しめる。今回、改めて単行本を購入して読んでみたのだが、このギャグのテンポは以前に見たことがあった。古谷実の『行け!稲中卓球部』だ(ここで詳しくは説明できないので、未読の方は是非ご一読いただきたい)。とくに、その要素は三女のすももがふんだんに受け継いでいる。メイド服、幼稚園児、小学生の体操服など服装が変わっているのはまさに稲中の前野だ。

恐らくネタまわしとしても、『稲中卓球部』を参考にしているのだろう。前世占いなんてのも、稲中の援用である。しかし、これをパクリだと言ってケチをつけるわけじゃない。よくここまで稲中のノリを受け継いで、自分の作風に組み込むことができたものだ、と思う。かつて90年代、稲中が大流行したときにはその系統の作品は数多く生まれたが、その二番煎じというか、今一つキレが無い作品が多かった。あれから10年という年月を経て読むオマージュともいうべき作品は、新鮮で、柏木作品にうまくなじんでいた。

ただ一つだけ残念なのは、この作品が2巻で終わってしまったこと。もちろんそんなに伸ばせるものでもないが、打ち切り用に備えていたような最終回のネタで締めるところなど、どうも締め方が弱いのが気になる。もう少し熱を入れて欲しかった。他の作品でも、柏木氏の作品は後半になると勢いが弱まってしまう所がある。最後までしっかりと描き切ることができたら、もっと面白い作品が次々と出てくるだろうと思う。現在は『も〜れつバンビ』をスピリッツで連載中である。こちらはぜひともしっかりとした形に作り上げて欲しい。読者諸氏の応援も必要だ。

2009年3月15日号掲載 このエントリーをはてなブックマーク

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柏木ハルコ「QUOJUZ」(小学館) 1巻p.32 プロローグ:男なんて!!
三姉妹が幹生をオモチャにする図。唯一まともそうな次女・かえでも、あやめとすもものペースに巻き込まれてしまう。プロローグは最高。

同1巻p.76 第3話:ディスティニーを信じる?
まさに前野と井沢の「死ね死ね団」。女の子版稲中は、これまでになかった新鮮さがある。もっと見たかったなあ。。。
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