時計を見るハルチカ。二時間ほど経過している。イヤホンに聞き入りながら目を閉じるハルチカ。人の話声が聞こえる。
爆発音。
パニック状態のライブ音声に変わる。
眼を開けるハルチカ。速やかに支払いを済ませ、ドアの外へ出た途端、ダッシュで駆け出す。
笑ってる。
土足のまま走り込んでくるハルチカ。
祭壇の前の棺桶が破裂し、凍った腐乱死体が転がり落ちている。
そのまわりで為す術もない家族達。
嘔吐している人間もいる。
娘 「なんで、やだ、やだあ。やだよお、なんでえええ」
死体は肩から腕が外れており、妻が泣きながらその腕を元に戻そうとしている。見てわかるほどの大きな体の震え。
妻 「お父さん、お父さんお父さん」
極端に興奮するハルチカ。辺りを見回し、突然耐えきれなくなったように爆笑する。
ハルチカ 「マジかよこの臭い。すげえよこれは。ホントに人間なんですかそれわ!!」
背後で、我に返った息子。
息子 「誰だあ! おまええっ」
それには構わず、娘に近づくと、自分の目を指さしからかうような動作をするハルチカ。
ハルチカ 「眼からのジョーホー、すんごい映像になってますね」
逆上して殴りかかってくる息子。軽くカウンターを合わせられ、殴り飛ばされる。泣き叫ぶ娘。
死体に近づき、見下ろして観察するハルチカ。
ハルチカ 「ホントに人間が腐ってる、ケケ、ケケケ」
奇妙な声を出し、見蕩れるハルチカ。
背後から肩を掴まれ、顔面を殴られるハルチカ。倒れ、頬を押さえながら顔を上げる。
息を上げ、片手に石を持って妻が立っている。
まっすぐ、ハルチカを見据える妻。
それを見て、殴られた息子も、ポケットから石を出して構える。
娘は石を胸の前で握りしめてまだ泣き続けている。
家族が、ハルチカを見る。
親戚らしき人間が、ケータイを使って大声で警察と話している声が聞こえる。
妻 「帰りなさい!」
上目遣いで怯えていた娘が、その母親の姿に驚く。
娘 「お父さん……!」
息子も驚いて、母親の方を見るが、霊の姿は見えない。
娘 「お兄ちゃん、お父さんそこにいるよぉ」
涙を流す息子、石を握りしめハルチカを睨む。
妻 「帰りなさいっ」
父親の声叫び失神する妻。崩れ落ちる母親に駆け寄る子供。騒然とした状態の会場。後ずさり、走って逃げ出すハルチカ。
路上息を切らせて走り続けるハルチカ。
背後に遠く、パトカーのサイレンが聞こえる。
けっ躓いて転びかけるハルチカ。見るとマンホールの蓋がずれている。
そのまま重い蓋をずらし、中に入るハルチカ辺りを見回したあと、ズンと蓋が落ちる。
2007年10月15日号掲載
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