ハルチカの職場の前仕事を終えて出てくるハルチカ。ふと顔を上げるとすわんが両手に棒アイスを持って立っている。ほほ笑みながら近づいてくるすわん。アイスを手渡され唖然となるハルチカ。
すわん 「溶けちゃうよ」
アイスを見つめるハルチカ。うつむいて自分のアイスを噛るすわん。
ハルチカもつられて一口噛る。それを見てすわんが切りだす。
すわん 「この間はごめんなさい」
頭を下げる。
ハルチカ 「いや、俺も。なんていうかバカみたいなリアクションだったし」
すわん 「ううん、なんか新鮮だった……っていうとまた怒る?」
ハルチカ 「ふん、別に」
アイスを舐めながら歩き出す二人。
ハルチカ 「こないだ、特技の話してたじゃん」
すわん 「うん」
ハルチカ 「俺もあるよ、特技みたいなやつ」
すわん 「どんなの?」
ハルチカ 「俺多分、人殺しがわかる」
すわん 「どうやって?」
ハルチカ 「昔この辺を普通に歩いてて、すごく嫌な感じの奴がいたんだ。見た目はまったくサラリーマンなんだけれど、気配って言うかオーラみたいのでてて。俺が仕事帰りで奴が出勤してくるみたいな感じで、決まった時間に何度かすれ違った」
すわん 「その人が人殺しだったの?」
ハルチカ 「そう。女四人も殺してやがったんだ。三年くらい前ニュースや新聞で騒いでたろ、人んちの郵便受けに指とか目玉とか、切り取った乳首とか入れてまわってたバカ」
すわん 「あった……」
ハルチカ 「で、それから気をつけて人を見るようになってさ、そしたらやっぱりわかるんだよ。捕まってニュースに出たのだけでも今んとこ三人は確認してる」
すわん 「警察に届けるとかしないの?」
ハルチカ 「信じる訳ないよ。それに面倒くさいし」
すわん 「そりゃ信じないだろうけど」
ハルチカ 「とまあ、特技って言えるかも怪しいけど。俺が普段犬とか鳩とか殺して食ってるせいかもしんない。どんな犬でも俺に懐いたりしないんだ。あいつらもわかるんだよ、こっちがそういうんだって。それでそういう勘みたいなのがうつったのかもな」
すわん 「そういえば、犬ってどこから連れてくるの?」
ハルチカ 「んなの保健所にボランティアですっていけばくれる」
すわん 「続けるの?」
ハルチカ 「たぶん。俺にとっては狩りと一緒だし、野菜つくんのだって何か、うまく説明できないけど、なにかを確実に実感できるから」
すわん 「でもあたしはもう、犬食べんのはイヤ」
少し照れたように、困るハルチカ。
あの人は?あいつは?と指を差して聞くすわんに、面倒くさげに、首を横に振り続けるハルチカ。しばらくそうやって遊ぶ二人。
ハルチカ 「そう簡単にいたらコワ過ぎンだろ」
すわんの手を引いて立ち上がる。
雑踏夏の日差しの中を少し離れて歩く二人、すわんが後ろからハルチカに声を掛けようとすると、すぐ近くで急ブレーキを掛けてランボルギーニミウラ(紺)または極端に車高の低いスポーツカーが止まる。中から血相を変えた北見が、佳代子を車に残したまま降りてきて、二人に追いつき、後ろからすわんの腕を掴む。振り向くがたいして驚きもしないすわん。スーツのポケットを探りメモを取りだす北見。「なぜ仕事に出てこないのだ」「ずっと探していた」など書かれたページを焦ったように捲りながら、すわんに示す。
ハルチカ 「誰?」
引き返してきてすわんに聞く。
すわん 「うん、職場のオーナー」
驚いて言葉を失う北見。愕然とした顔ですわんとハルチカの顔を交互に見る。
北見 「き、きみは、すわんだろ……喋れる、いや、耳が聞こえているのか? 今までずっと、私たちのことを騙していたのか?」
すわん 「いまは聞こえてるの。騙してたわけじゃないわ」
北見 「意味がわからん! それに、この男はいったいなんだ!」
すわん 「あたし仕事辞めます。いままでありがとうございました」
ハルチカを促し立ち去ろうとするすわん。血相を変えて北見があとを追ってくる。身構えるハルチカを制して、北見に捕まれた手を振りほどくすわん。
すわん 「助けて! この人ストーカーなんですッ!」
狼狽える北見、通行人も最初ははっ とするが幾人かが足を止めるのみで、見ぬふりなムード。黙ってジュースの自動販売機に向かうハルチカ。北見が平静を取り戻しそうになった途端、ハルチカが買ったばかりの 350缶を、近くの飲食店ウインドウへ投げる。派手に割れる硝子。中から出てくる店員や客、立ち止まる通行人。ハルチカに微笑みかけるすわん。
すわん 「この人刃物持ってますーっ、誰か助けてーっ」
すわんの叫びで、集まってくる若者たちに取り囲まれる北見、通りかかったチャリンコポリスが急いで寄ってくる。
警官 「どうしましたーっ?」
どさくさに紛れてその場を後にする二人。
(以下次号)
2007年11月19日号掲載
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