ちょっと離れた路上 

いくぶん早歩きな二人、かといって後ろを振り向くこともない。

すわん  「叫ぶのなんて、生まれてはじめてみたい」

ハルチカ 「社長なんだろ今の人。いいのかよ」

すわん  「ううんアリガト。貯金いっぱいあるし、どうにでもなる」

二人に近づいてくるランボルギーニミウラのウインドウが下がり、佳代子がすわんを手招きする。

すわん  「だいじょぶ」

ハルチカに言い、佳代子の顔を覗き込む。

佳代子  「見てたわよ、全部。とんでもないわねあなた。それに耳が聞こえてたなんて驚き」

すわんの頬に手をあて、自分の顔に引き寄せる佳代子。

佳代子  「よけい惚れちゃったじゃない」

無表情なすわん。ハルチカを振り返る。

佳代子  「ちょっと乗らない? そこの彼氏くんに聞かれたくないでしょ」

ハルチカに手で合図し、車に乗り込むすわん。

佳代子  「あの人とはもう、手続き済ますだけなの。慰謝料として相当出させるつもりでいるし。どう、これからは私と契約しない? 会ってもらいたい人も何人かいるの……」

話を無視してバッグをごそごそやり、こっそりスタンガンを出すすわん。

佳代子  「それに……」

言いかけて電撃をくらう。短く叫ぶ佳代子。すぐに失神する。
目を閉じてスタンガンを佳代子のわき腹に押し付けるすわん。
念のためもう一度腕に押し当てる。ビクッと跳ねる佳代子。
ニッコリと車から降りてくるすわん。

ハルチカ 「なんだったんだよ、悲鳴みたいの聞こえたぜ」

すわん  「平気、ちゃんとサイドブレーキしてきた」

ハルチカ 「いやそうゆんじゃなくて……」

並んで歩き出す二人。ふいにハルチカのわき腹に軽いパンチをいれるすわん。

すわん  「デストローイ!」

ハルチカ 「わかんねえな」

すわんがはしゃいでハルチカの腕に抱きつくが、あっさり振りほどかれる。楽しそうな二人。


 ハルチカのアパート 午前9時45分 

部屋へ入ってくる二人。煙草に火を着けるすわん。

ハルチカ 「まだ午前中だ」

すわん  「うそ、なんかすごい」

ハルチカ 「うん」

すわん  「なんか凄く、興奮してる」

目を輝かせるすわん。ハルチカに体を寄せる。もつれて倒れそうになる二人。

すわん  「キスしても、大丈夫?」

ハルチカ 「え?ああうん」

すわんハルチカの首筋から胸元へ派手な音をさせながら、外人が赤ん坊にするようにキスの雨を降らす。笑いながら身をよじるハルチカ。ふとキスを止めて、ハルチカを見つめると、手を引いてベッドへと誘うすわん。倒れ込み、ハルチカも、どうしていいか解らないなりに、すわんの体を触る。ハルチカの下になり仰向けなすわん。切羽詰まった表情。

すわん  「愛してるって言って」

ハルチカ 「は?」

すわん  「言ってよ」

ハルチカ 「んなこといわれても解んねえよ。口先だけで言うのは変だ」

すわん  「んーん、ホントに愛してなくていいの。言ってくれるだけで。でもそれで、少なくとも今だけでも、確実に必要と、されてるような気がするから」

ハルチカ 「まだ慣れないし、意味のないこと言いたくないよ」

照れて、少し嬉しいハルチカ。

すわん  「どうしても?」

ハルチカ 「うん、今はどうしても」

すわん顔をそらせて、うんざりしたように溜め息をつく。

すわん  「みんな言ってくれたのになんで? みんな愛してる好きだって口動かしてたよ。抱きしめて、優しくしてくれた」

ちょっとむかつくハルチカ、体を離す。

ハルチカ 「なに怒ってんだよ」

すわん  「無理矢理されたときだって、気持ちいい、最高だって、あたしのこと誉めてくれたから、頑張ってなんとか……」

ハルチカもう切れてる。

ハルチカ 「そうかよ」

すわん  「そうよっ! あたしのこと好きなんでしょっ、ヤリたいんでしょっ! 必要だって言ってほしいのあたしはっ、いつもっ!」

ハルチカ 「帰れよテメエッ! 死ねヤリマンッ。お前が公衆便所じゃねえかよ」

すわんを押しのけベッドから降りるハルチカ。しばらく沈黙が続く。

すわん  「……そんなこと言わないで」

ハルチカを見つめ涙を流している。びっくりするハルチカ。立ち上がるすわん。

すわん  「帰る」

ハルチカ困ったように室内をうろつく。ドアの閉まる音。あとを追うハルチカ。

ハルチカ 「送るよ」

すわん  「いい」

ハルチカ 「言いすぎたよ、悪かった。……泣くなんてさ」

うつむいてアプローチを歩くすわん。気まずそうに隣を歩くハルチカ

すわん  「アパートの不動産屋どこ?」

ハルチカ 「へ? ああ、親戚が大家やってるんだけど……」

すわん  「あした引っ越してくる」

呆然となって、歩き去るすわんの後ろ姿を見送るハルチカ。


 二週間後 

ハルチカのアパートハルチカの隣の部屋のドアを開けて当たり前のように出てくるすわん。ドアを覗き込み、靴を確認する。

すわん  「ねえ宿直明けーっ? 買い物行こうよーっ」

部屋を覗き込むすわん。誰もいないベッドに向かって扇風機が首を振っている。

すわん  「いないの?」

縁側から農作業中のハルチカが戻ってくる。

ハルチカ 「なに?」

すわん  「買い物付きあってよ、すっごく美味しい目玉焼き作るから」

ハルチカ 「なんだよそれ」

面倒くさそうなハルチカ、嬉しそうなすわん。

ハルチカ 「ちっと待って」

隣の部屋へ行き、パソコンの電源を切る。

2007年11月26日号掲載


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