同 現場 

背後からすわんの体当たりをくらう少年。つんのめる。
ナイフが突き刺さり、激しく痙攣する少女の足が見える。
一瞬面食らう少年、すぐに切れてすわんを突き飛ばし、慌ててデジカメを拾うと少女を撮る。
胸にナイフで記号や文字が書かれた少女、大出血。逃げ出す少年、追いすがるすわん。

少年   「なんなんだよっ、凡人のくせにっ!」

腰のホルダーからニューナイフを出してすわんに切りかかる。胸の上辺りをスパッといかれるすわん。
腰が抜けたようにへたり込むすわんを飛び越えて、ハルチカが少年を殴る。ナイフを持ったままの少年の腕をつかむと蹴り上げて折る。
悲鳴を上げる少年。さらに頬を張る。

ハルチカ 「つまんねえ映画の見過ぎなんじゃないの? 漫画かこりゃ?」

少年の髪をつかみ少女の方に向けるハルチカ。
すわんがケータイで救急車を呼んでいる。

すわん  「もうダイジョブだからね、ごめんね、ごめんね」

泣きながら少女を抱きかかえる。

ハルチカ 「まだ警察は呼ぶなよ」

ビクリとする少年とすわん。
少年の足下にリュックの中身をぶちまけるハルチカ。財布やなんかと一緒に声明文と、硝子の小瓶がいくつも出てくる。

ハルチカ 「なにこれ」

少年の頭上で瓶どうしを叩き合わせ割る。破片を頭から被る少年。
瓶から出てきた小さな紙を拾い上げるハルチカ。意味不明の記号や、カラフルな文字。

ハルチカ 「なに?」

少年の頬を張る。
あれっ?とポータブルMDを拾う。

ハルチカ 「録音できんじゃん」

イヤホンをマイクジャックに差し替える。

ハルチカ 「喋れない?」

少年の、折れた腕を掴む。悲鳴を上げのたうつ少年。

ハルチカ 「喋って」

ナイフを拾い、少年のズボンを切る。怯える少年、観念。

少年   「……です」

ハルチカ 「おっ、じゃあまずはお名前からどうぞ」

少年の財布からビデオ屋の会員証を出し、少年に突きつける。動揺しきった少年、すわんに口のハンカチを出され、少女が狂乱状態で泣きわめく。

ハルチカ 「ちっとうるさいから、あっち連れてってくれよ」

わけがわからないままとにかく少女を遠ざけるすわん。
「名前は?」「住所」「両親の名前は?」「はい父親の職業」などMDを向けて少年に質問するハルチカ。
時折楽しげにデジカメのシャッターを切る。少女の時と同じに、シャッターを切ったときだけ少年が映る。

少年   「……勘弁してください」

泣き出す。

ハルチカ 「いいよ。じゃ最後にこれどうするつもりだったか言って」

さっきの小瓶を突きだす。首を左右に激しく振り、拒否する少年。

ハルチカ 「へえ」

少年の両頬を掴み口をこじ開けると、小瓶をねじ込みガムテープで蓋をするハルチカ。

ハルチカ 「じゃ喋んなくていいや」

少年の顎を拳で小突く。
耐える少年、次第に力の入る拳。しまいには蹴り上げようとするハルチカ。
パニックを起こす少年、何度も激しく頷く。

ハルチカ 「はい、じゃ言って」

少年の口からガムテープを外すハルチカ、瓶は少年が自力で吐き出す。

少年   「入れようとしてたんです」

泣きじゃくる。

ハルチカ 「どこに?」

少年   「……カントです」

ハルチカ 「カントってまんこ?」

顔を逸らす少年。

ハルチカ 「ウソつけ、入んないよこんなの、多分」

少年   「ナイフで切れば入ります」

ハルチカ 「入りますってお前、全部かよ」

うんざり。

少年   「口、とか、お腹にも詰めようと思ってました。」

ハルチカ 「なんで?」

少年   「僕の、神に選ばれた人間の子供を産まそうと思いました」

ハルチカ 「死ぬだけだよ」

少年   「それならそれは、あの子が神に選ばれなかっただけで。けどお告げをもとに僕が考え出したやり方をとれば、それは確実に新しい方法なんですが、本当の僕の姿がこの世に現れる瞬間を狙って……」

顔面パンチ。

ハルチカ 「もういいよ、つまんない」

立ち上がり少年を見下ろす。

ハルチカ 「何時間後かに、お前のしたことはニュースに出る。でもお前の名前も顔もすぐにはわかんないし、頑張って黙ってれば意外に簡単に出てくるかも知んない」

足下に散らかった少年の荷物を残らずリュックに詰めはじめる。

ハルチカ 「しかし、何日か後にはこの映像と音声、お前の個人情報はすべて、インターネットで公開されるのでした。」

愕然とする少年。

少年   「なんでそんなことするんだよお」

ヒステリー状態でハルチカから荷物を取り返そうとするが、突き飛ばされ引っ繰り返る。大泣き。

ハルチカ 「なんでってお前、俺が善意の第三者だからにきまってんじゃん」

怯えきった少年、救急車のサイレンが聞こえてくる。少年のパンツを脱がせ、両足首をガムテープで巻く。
泣き続ける少女を抱き、神社の入り口で必死に励ましているすわん。

ハルチカ 「おめでとう、お前の本当の現実がはじまるよ」

少年の着ているシャツを脱がせる。
振り返るとすわんのところまで行き、血の付いたTシャツを脱がせると少年のシャツを着せる。戸惑うすわんの手を強引に引き、走り出すハルチカ。
救急車のサイレンがさらに近づき、少女は仰向けの死体みたいに転がっている。

2007年12月10日号掲載


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