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【体は男性、心は女性という性同一性障害の男子高1年生・ドングはぽっちゃり太めのおっとりとした性格で、マドンナの歌がお気に入りだ。そんなドングが、ある日“インチョン市杯高校生シルム(韓国相撲)大会”優勝者に500万ウォンの奨学金が出ると聞いてシルム部の門を叩く。優勝して、その奨学金を性転換費用にしようと考えたのだ。かくしてドングの“女の子への道”が始まった!】
というストーリー。一風変わったスポ根青春映画と言って良い。
監督は、2人組の脚本家として注目を集めているイ・ヘヨンとイ・ヘジュン。本作が監督デビュー作となり、もちろん脚本も執筆している。
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女の子になりたい男の子が主人公の映画といえば、フランス&イギリス&ベルギー合作作品『ぼくのバラ色の人生』(1997)や、アイルランド&イギリス合作作品『プルートで朝食を』(2005)が記憶に新しい。相撲映画では周防正行監督の秀作『シコふんじゃった』(1991)が真っ先に思い浮かぶが、変り種としては女性相撲を描いたイギリス作品『恋はハッケヨイ!』(2000)も忘れられない。今回御紹介する『ヨコヅナ・マドンナ』は、ここに挙げた4作品をミキサーにかけたらこうなるだろうという、良いとこ取りの面白さに満ちた実に可愛らしい作品だ。
主人公のドングを演じたリュ・ドックァンが青龍賞と大鐘賞の双方で新人男優賞を受賞したという報は当時から聞き及んでいた。韓国国内の2大映画賞を制した新人俳優ということで、かなり話題になっていたのだ。既に大ヒット作『トンマッコルへようこそ』(2005)の少年兵役で注目を集めていたドックァンが、本格的なブレイクを果たしたのが本作というわけ。以来、日本公開を心待ちにしていたものである。
ドックァンはドングを演じるにあたって、役作りのために27キロもの増量と、韓国相撲=シルムと、マドンナの歌曲に合わせて踊るダンスの猛特訓を行ったという。
主に外面にこだわった役作りを“デ・ニーロ・アプローチ”と呼ぶが、これは、かつて『レイジング・ブル』(1980)でロバート・デ・ニーロが25キロの増量を行ったことで確立された造語。驚くべきことに、本作のリュ・ドックァンは、その体重増量による役作りの本家デ・ニーロを凌ぐギネス・ブック級の記録を打ち立ててみせたのだ(体重減量役作りの記録は『マシニスト』(2004)のクリスチャン・ベール。なんと約30キロ!)
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この役作りは大変に過酷なものであったろうと想像されるが、実際に鑑賞してみると、ドックァン持ち前のニコニコとした愛嬌に溢れた表情がその苦労を重く感じさせず、その笑顔を存分に活かしたダンス・シーンにはこちらもニコニコさせられた。ドックァンの天性の微笑み顔がそのまま作品全体の持ち味に繋がっている感があり、なるほど、噂通りの好演である。彼の演技を見るだけでも一見の価値はある。“乙女男子”なる造語も、従来なら重苦しくなりがちだったこの手の物語を実に快活に仕上げた本作にピッタリだ。
そんなドックァンの快演を支えるベテラン助演陣の演技にも注目して欲しい。特に、元プロボクサーで、現在は酒びたりの暴力オヤジであるドックァンの父親キム・ユンソクの熱演と、シルム部コーチを演じたペク・ユンシクのコメディ・リリーフ振りには注目だ。
惜しむらくは、ドックァンと父子・母子・部員との確執や、親友である同級生との友情、更に教師への恋心など、さまざまなドラマを詰め込み過ぎたため、視点がバラけてしまったところ。もう少し焦点を絞ってじっくり見せてほしかったという思いはある。
とはいえ、相撲と聞いて思い浮かべる日本のそれとは異なるシルム独特のルールをしっかりと説明してくれるのは、我々日本人にとっては新鮮な興味を惹くし、祝祭ムードに溢れたエンディングで見せるドングの弾けぶりが気持ちよく、鑑賞後の後味も良い。
尚、本作にはSMAPの某メンバーが特別出演している。これは1つのサプライズであるから、誰が出演しているか、その名は敢えて秘しておこう。劇場にて確認して欲しい。
ヨコヅナ・マドンナ http://yokozuna-madonna.com/
原題『LIKE A VIRGIN』
2006年 韓国 116分 配給:ファントム・フィルム
監督・脚本:イ・ヘヨン、イ・ヘジュン
出演:リュ・ドックァン、キム・ユンソク、イ・サンア、イ・オン、ペク・ユンシクほか
【上映スケジュール】
9/13(土)〜 東京:シャンテ シネ
9/27(土)〜 大阪:敷島シネポップ
京都:TOHOシネマズ二条
10/4(土)〜 兵庫:シネカノン神戸
にてロードショー