祖母が元気だったころにもらったいくつかの時計や指輪などを身に付けてみようかと思った。指輪はすこし磨いたりして使えるのだが、時計はもう動かなくなっていたので、安く分解掃除をしてくれる店をさがしていた。隣のS町に骨董店があったのでもしかしたらと思って訪れてみる。その店先は田舎の金物屋といった感じで、特に味気もない。奥に入っていくと、ガラスケースのなかにいくつかの時計とからくり人形が、これまた無造作に並べられている。店主の趣味というよりは集まってきたものをただそのまま選別もせずに置いてみたというようなそっけなさだった。店の奥へと向かって声を何度かかける。
しばらくして、ようやく引き戸がからからと動いて店主らしき男が出てきた。男は度のきつそうな眼鏡の奥からわたしを見た。「オーバーホールをして欲しいのですけど」「ああ、できますよ。どれ、みせて」わたしは、バッグからハンカチに包んだ時計をとりだして渡した。「なか、見てみるね。ちょっと、まってて」古い木の机の上のライトがぱっと点いた。
あらためて店内を見回していると、新旧東西なんでもありで、こんながらくたで商売になるのかしら。と思って見ていると、変な箱を見つけた。茶わんでもひとつ入っているのかなというくらいの立方体で、濃いむらさきのビロードでできている。箱のふたには金の型押しで「不発弾」とあった。「これ、なんでしょうね」「さあ、ごみ捨て場でひろったのでね」裏返したりしてみたがほかには何も書いておらず、どうやったら開くのかさえわからなかった。なかに何がはいっているかはわからないが重みもあって、つくりも決して安っぽくはなく、職人が丁寧に手作りしたようなかんじだった。「それ、鍵、ないんだよね」「開かないんですね」「うん、多分ね」なぜだかわからないが無性に欲しくなる。「欲しいな、これ」「はは」店主は笑ってわたしを見た。よく見るととても若いようだ。こういう店の奥にいるから年配者のような気がしていた。「あなた、いま耳の奥でるるるるるぅって音がしていない?」「さあ。なんでしょうか、それ」「こういうとこでね、何かひっかかるものを手にしたとき、みんな耳のおくの磁石が回転するんだって」「北極点ですか」「うん。計測不能になるんだ」「強力な磁場を感知してるんですね」「そうかもね」わたしはその箱を耳に近付けてみた。暗示にかかったのか、小さくるるるるるう。という、音が確かにする。店主がつけた2000円という値段がごみにしては高いな、と思いながらもそれを手に入れた。
時計の受け渡し日を告げられ店をあとにする。帰り道歩道橋を降りていくとき、あやまって箱を落してしまう。箱はいとも簡単にぱっかりとあいた。中には、鉛でできたちいさなラグビーボールのようなものと紙切れが入っていた。そこには”この爆弾はあなたの内側をすべて破壊してしまうものです”とあった。ああ、だまされたのだな。と、そのときやっとわかった。
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