who?

  2月某日  

 

7月某日 曇りのち豪雨

8月某日 快晴
8月某日 薄曇り

9月某日 曇りのち晴れ
9月某日 晴れ

10月某日 曇り

11月某日 快晴
11月某日 快晴

12月某日 晴れのち雨
12月某日 晴れ

 

 

 Kが東京に来た。三度目である。一度目は春。二度目は真夏、いまは冬だが梅がほころびはじめている。日比谷図書館で待ち合わせて北の丸公園まで歩く。園内のお堀に面したベンチには、ぽつりぽつりとカップルが座っている。その中のひとつに二人で座る。話が途切れると、Kが肩を引き寄せてなるべく人から分からないように、そっとキスをする。わたしは、風邪がうつるよ。といって離れる。Kは笑っている。
Kがあたたかい缶のウーロン茶を買ってきて中に臘梅ろうばいの花びらを入れる。
―こうすると、おいしいよ。
もう一度キスをする。臘梅の香りがする。
二人でいると、いつもと違う空間ができる。
―逢瀬っていうね
―うん
―水の中。なのかな
―そうだなあ
―川のあちらとこちらからざぶざぶと入ってやっと真ん中で会えるのね
―中州のようなものがあって、泳ぎ疲れてあがって一息つくと目の前に恋人がいて
―キスをしてくれる。でも、だんだん水かさが増してきて、立っている場所がなくなって、水がどんどんあがってきて
―どうなるの?
―溺れるの

部屋をとってあるホテルにチェックインするために、晴海通りにでて勝どき橋まで歩く。暖かく長い冬の日が水面にゆれている。川の真ん中でせっせと食事をしてる鵜を眺めながら、サバの押し寿司を食べる。目の前を何度も小さな船が通る。勝どき橋を渡り、晴海埠頭近くのホテルへ。まだ日は高い。鍵を手に入れ、私たちは何時間も部屋にこもる。たどりついた中州で互いを見つけた時のように、会えたことを喜び、断絶された空間に閉じこもる。日が落ちてから、近くのコンビニにでかけてインスタントコーヒーなどを買う。部屋で昼ののこりを食べてまたベッドに入る。やがて、疲れて二人とも眠る。ツインの部屋なのに片方のベッドは空いたままで。窮屈とも思わずに狭いベッドでくっついている。
真夜中にひとりで目覚める。彼は深い寝息をたてている。寝顔をしばらく眺めながら、Kの子供の時の顔を想像する。音をたてないように、ベッドを抜け出して着替え、そっと部屋を出る。明日になったら、家の電話も携帯の番号もEメールのアドレスもすべてかえる。外の冷たい空気が体に流れ込んでくる。冷たいけれど、少し気持ちがいい。晴海通りでタクシーをひろう。行き先を告げて、また浅い眠りに入る。

(了)

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